2020年3月10日 更新

東京2020で日本のスポーツビジネスは変わる。スポーツマーケティングの未来をどう作るのか

アスリート、企業、運営団体などスポーツ業界だけでなく、政治家、官僚、地方自治体、ボランティア、スポンサー企業、一般の視聴者、観戦者、その全てを巻き込む東京2020は、日本がスポーツビジネス先進国に追いつく最大のチャンス。

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「スポーツビジネス」と「スポーツマーケティング」

スポーツビジネスというとスポーツメーカーやプロスポーツそのものなど、スポーツ産業という意味合いになるが、スポーツマーケティングというとスポンサー企業によるスポーツコンテンツを活用したPR/プロモーションという視点になる。
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残念ながら、日本はどちらにおいて先進国とは言いがたい。アメリカの4大プロスポーツリーグ(NFL、NBL、MLB、NHL)、ヨーロッパの4大サッカーリーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ)などに代表される様に、やはり米国と欧州スポーツ界は様々な面で違いがある。一番分かりやすいところで言えば、選手の報酬だ。それだけ「スポーツ・アスリートの価値」が高いのだ。
変わらなくてはいけないのはスポーツ界の仕来りやアスリート、業界の人間だけではだめだ。スポーツを観る一般の人や、政治家、自治体、支える企業など、スポーツを取り巻く環境全部が変わらなければならない。一朝一夕に進歩できることではないが、日本にはビックイベントがひかえている。来る東京2020オリンピック・パラリンピックは日本のスポーツ業界が変われるまたとないチャンスなのだ。
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「レガシー」という言葉がメディアで多く語られる様になって、この記事に興味を持って読んでいらっしゃる方のほとんど方は理解されている事と思う。国立競技場に代表される東京2020をキッカケに新設、改築される競技場や特にパラリンピックに必要とされるインフラなどのハード面に対し、実は重要なのは「ソフト面」にあるという事も聞いたことがあるのではないか。

日本が世界に肩を並べるスポーツ先進国となるために、最も重要なのが、このソフト面のレガシーだと筆者は考えている。

東京2020を経て、日本のスポーツビジネス、スポーツマーケティングがどう変わっていくのか。いや、変わるべき方向性について、数回に渡って、語っていきたい。

スポーツにおけるスポンサーシップ

当社の業務はスポーツビジネスに立脚しているが、長く広告代理店にいた私はやはりスポーツマーケティングの分野を得意としている。「競技団体(協会・連盟)のスポンサーマーケティング」および「スポーツコンテンツを活用した企業プロモーション」についてのそれなりの経験があるので、できるだけその具体的な事例をもって語っていきたいと思う。
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スポーツマーケティングには、
①競技団体スポンサー 
②大会協賛 
③アスリートスポンサー などがある。

日本でも既にそれらのマーケティングは行われているが、まだまだビジネスの規模は小さい。野球、サッカー、ゴルフ、テニスなどプロスポーツと呼ばれるスポーツは比較的マーケティングとしても成功している事例が多い。
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一方、陸上、水泳、柔道、レスリング、スキーなど、オリンピック競技ではメジャーだが、アマチュア競技はスポンサーマーケティングで成功している競技団体は非常に少ないというのが現実。個人で突出し、広告契約などで収入を得るアスリートも一部いるが、それは競技団体の収入にはならず、スポーツの強化・普及には繋がらない。
競技団体が潤わなくては代表選手のコーチ招聘、合宿費用、遠征費、特にジュニアの育成にまで費用が届かず、中長期的な選手強化が難しくなる。日本人はオリンピックが大好きでオリンピックの時だけはマイナースポーツのメダル獲得に日本中が沸いたが、それはあくまで4年に一度。どの競技も毎年、世界大会はあり、強化はその中で行われていく。

日本スケート連盟のケース

特例としては日本スケート連盟の成功がある。スケートにはフィギュアスケートとスピードスケート・ショートトラックがあるが、フィギュアスケートにおいて荒川静香、安藤美姫、高橋大輔、浅田真央、羽生結弦など、極端に強い「個」が次々に登場し、しかし彼らの選手としての権利を協会がしっかりと囲っている。
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それぞれがアスリートとしてだけでなく、タレントとして十分な活動をしており、世の中の高い認知を獲得している。そのため、彼らが出場する大会に対し、TV局がしっかりと番組として放送し、スポンサーの露出が十分に確保される。協会のスポンサーが大会のスポンサーとnearlyイコールであり、企業が競技団体(協会、連盟)のオフィシャルスポンサーになる十分な価値あるのだ。

全日本スキー連盟のスポンサーシップマーケティングの苦悩

一方、全日本スキー連盟(SAJ)はかなり苦戦している。世界に誇るレジェンド葛西紀明と世界チャンピオン髙梨沙羅を抱えるにもかかわらずだ。今回はこのSAJの事例について掘り下げて考えてみたい。
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SAJのマーケティングにはオフィシャルスポンサーとパーソナルスポンサーがある。オフィシャルスポンサーとはSAJに所属する選手(スノーボードも含む)のスポンサーだ。競技ウエアやアウターなどのワッペンや記者会見などで露出されるバックボードの企業名がそれだ。パーソナルスポンサーとは選手個人のスポンサーを指す。
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一番、目立つのはヘッドギアと呼ばれるヘルメットやニット帽などに付いてる枠だ。SAJにはもうひとつ大会スポンサーというワールドカップなどの大会に協賛する方法もあるが、そちらについては後ほど語る。
SAJがマーケティングで一番苦労する理由はTV放送(全国)が少ないこと。もちろん放映しても視聴率がとれない事の裏返しだが、バレーボールの様に日本のTV局(フジテレビ)が全面的にバックアップし、競技普及に協力するケースもある。髙梨沙羅選手が今シーズン53勝というワールドカップ最多勝利記録により、スポーツニュースやスポーツ新聞でかなりの露出があった。彼女のヘルメットや表彰台にあがった時の“おでこ”に入浴剤メーカーの緑のスポンサーロゴを見た人は少なくないだろう。
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しかし、実際にジャンプ場に足を運び観戦し彼女が飛ぶ瞬間、声を出して応援したり、TVを通じてでも外国人選手を圧倒して勝つ姿を生放送で見た人がどれだけいるだろうか? “化粧をする様になって綺麗になった”という付帯効果もあり、オフシーズンにかなりバラエティ番組への出演があった。普段ヘルメットとお世辞にもオシャレとは言えないジャンプスーツ姿しか見せない彼女の可愛らしい普段着と、とても世界のトップアスリートとは思えない親しみのあるキャラクターにより“お茶の間”に人気が広がった。
バラエティ番組の出演は単に「タレント髙梨沙羅」としての露出のため、彼女のパーソナルスポンサーロゴでさえ、ほとんど露出はない。しかし来シーズンは平昌オリンピックがある。ヨーロッパで行われるのと違い時差がない事は非常に大きい。彼女の知名度・人気が、彼女を応援したい、競技を見たい、とTVの視聴率に繋がってくれれば良いのだが。

スキーの大会スポンサーについて

そして大会スポンサー(協賛)についてだ。SAJの場合、FISワールドカップと呼ぶ世界大会が毎年いくつか日本で開催されている。2016年に10年ぶりにアルペンスキーのワールドカップが苗場で開催されたが、昨シーズンは、男子ジャンプのワールドカップが札幌で2試合、女子ジャンプが札幌2試合と蔵王で2試合、ノルディックコンバインドの試合が札幌で2試合、フリースタイルモーグルの大会が秋田田沢湖で2試合など、毎年、世界大会が日本で開催されている。
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残念ながら、ここでの大きな問題は大会の集客だ。先ほども書いたが欧州でかなりの人気を誇りそして日本でも知名度の高いレジェンド葛西紀明が出場し、16-17シーズン、19戦のワールドカップで日本人(髙梨沙羅と伊藤有希)が14勝している女子ジャンプでもその結果に見合った来場者がいるとは言いがたい。スポーツマーケティングにおいて「観る」は、非常に重要な要素なのだが、野球以外日本ではスポーツ観戦が根付いているとはいえないだろう。
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野球ではアマチュアスポーツである高校野球(甲子園大会)は非常に人気があり集客力がある。一方、サッカーでさえ日本代表戦以外のJリーグは集客に苦しむチームが多い。これについては別途深く語る必要があるが日本のスポーツビジネスが米国や欧州と比べ“後進国”である事を示している。
話をSAJの大会協賛に戻す。もうひとつ大きな問題がある。大会協賛スポンサーの獲得がローカル(大会組織委員会)に委ねられていることだ。これは逆説的だが集客に繋がらない原因の一つでもある。

ズバリ言おう。先ほども書いた様に日本はスポーツビジネス後進国だ。その国のスポーツマーケティングのノウハウがギリギリ中央競技団体にあるか無いかのレベルなのに、ローカルにマーケティングを任せてはならない。

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そこにはアルペン、ジャンプ、フリースタイル、スノーボードなど、競技の壁など要らない。むしろ違う競技の大会運営の経験が活きたりする。そして大会運営とは競技の運営だけではない。TV放映についてや、大会協賛スポンサーの集め方、集客のための広告・PR/プロモーション、取材対応も大会運営の一環だ。アマチュア競技団体に一番必要なものは、それら全てのノウハウの集積なのだ。

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