LA 店頭レポート シリーズvol.5 ep.3 WHOLE FOODS
はじめに
かつて「欲しいものを買うために出かける」ことは、当たり前の消費行動だった。
目的の店舗に向かい、目的の商品を手に入れるという構造は、長らく人々の購買行動の中心にあり、特に郊外型ショッピングモールなどはその象徴的な存在であった。
しかし、ECサイトの進化とスマートフォンの普及により、消費行動は劇的に変化した。
欲しいものはいつでもどこでも検索・比較・購入ができ、効率的で機能的な購買手段が生活に完全に定着した今、「モノを手に入れる」ことそのものが、もはや購買動機にはなりづらくなっている。
こうした環境の中で、リアルな商業空間が再び注目を集めるには、新たな役割が求められるようになった。
そのひとつが、「セレンディピティ(serendipity)」の提供である。
セレンディピティとは、「偶然の幸福な発見」を意味する言葉であり、計画や期待を超えたところで、ふとした気づきや出会いに心を動かされるような体験を指す。
事前に調べ、比較し、最適解を選ぶことが当たり前になった現代において、人々は逆に“想定外の発見”に飢えている。
あえて検索せずに歩いてみる、予定になかったものに出会ってみる──そんな非効率で偶発的な行為が、かえって深い満足感や記憶に残る体験をもたらすようになっている。
このように、商業空間が果たすべき役割は、単に「買う場」から、「何かと出会う場」へと変化しつつある。
本レポートでは、こうした消費者心理の変化に注目しながら、「偶然性」が商業空間にもたらす価値について考察を進めていく。
目的の店舗に向かい、目的の商品を手に入れるという構造は、長らく人々の購買行動の中心にあり、特に郊外型ショッピングモールなどはその象徴的な存在であった。
しかし、ECサイトの進化とスマートフォンの普及により、消費行動は劇的に変化した。
欲しいものはいつでもどこでも検索・比較・購入ができ、効率的で機能的な購買手段が生活に完全に定着した今、「モノを手に入れる」ことそのものが、もはや購買動機にはなりづらくなっている。
こうした環境の中で、リアルな商業空間が再び注目を集めるには、新たな役割が求められるようになった。
そのひとつが、「セレンディピティ(serendipity)」の提供である。
セレンディピティとは、「偶然の幸福な発見」を意味する言葉であり、計画や期待を超えたところで、ふとした気づきや出会いに心を動かされるような体験を指す。
事前に調べ、比較し、最適解を選ぶことが当たり前になった現代において、人々は逆に“想定外の発見”に飢えている。
あえて検索せずに歩いてみる、予定になかったものに出会ってみる──そんな非効率で偶発的な行為が、かえって深い満足感や記憶に残る体験をもたらすようになっている。
このように、商業空間が果たすべき役割は、単に「買う場」から、「何かと出会う場」へと変化しつつある。
本レポートでは、こうした消費者心理の変化に注目しながら、「偶然性」が商業空間にもたらす価値について考察を進めていく。
セレンディピティとは、「偶然の幸福な発見」を意味する言葉であり、計画や期待を超えたところで、ふとした気づきや出会いに心を動かされるような体験を指す。
ep.3 WHOLE FOODS
視覚と嗅覚が刺激されるWHOLE FOODSの店頭
Whole Foodsの店頭が他のスーパーマーケットと一線を画している最大の特徴は、「香り」による空間演出にある。
多くの小売店が視覚やBGMといった視覚・聴覚中心の印象づくりを行う中で、Whole Foodsでは店に足を踏み入れた瞬間、“空気の違い”として芳香が感じられ、来店体験を特別なものにしている。
青果コーナーでは、山積みにされた果物や瑞々しい野菜から自然な香りが漂い、商品が「新鮮そうに見える」だけでなく、実際に五感で鮮度を感じさせる設計となっている。
またデリコーナーでは、スパイスやロースト、ソースの香りが空間を満たし、視覚よりも先に食欲を刺激してくる。
さらに、オーガニック化粧品やバスグッズのコーナーでは、パッケージされていない固形石鹸がむき出しで棚に積まれ、ラベンダーやティーツリーなどの天然精油の香りが自然に空間に広がっている。
ここでは、香りそのものが商品説明の代わりを果たし、嗅覚を通じて商品世界に引き込まれるような演出がなされている。
こうした体験設計は偶然ではなく、Whole Foodsが「オーガニック」や「健康志向」といった価値を、原材料表示だけでなく空間体験として伝えるためのブランディング戦略の一環である。
それは既存のファンにとっての“期待された快感”であり、初めて訪れた人にとっては“思いがけない発見”として機能する。
視覚や価格だけでは差別化しにくいスーパーマーケットという業態において、Whole Foodsは「香り」という感覚的価値を核にした共感の売場づくりを徹底し、都市生活者との深いエンゲージメントを築いている。
多くの小売店が視覚やBGMといった視覚・聴覚中心の印象づくりを行う中で、Whole Foodsでは店に足を踏み入れた瞬間、“空気の違い”として芳香が感じられ、来店体験を特別なものにしている。
青果コーナーでは、山積みにされた果物や瑞々しい野菜から自然な香りが漂い、商品が「新鮮そうに見える」だけでなく、実際に五感で鮮度を感じさせる設計となっている。
またデリコーナーでは、スパイスやロースト、ソースの香りが空間を満たし、視覚よりも先に食欲を刺激してくる。
さらに、オーガニック化粧品やバスグッズのコーナーでは、パッケージされていない固形石鹸がむき出しで棚に積まれ、ラベンダーやティーツリーなどの天然精油の香りが自然に空間に広がっている。
ここでは、香りそのものが商品説明の代わりを果たし、嗅覚を通じて商品世界に引き込まれるような演出がなされている。
こうした体験設計は偶然ではなく、Whole Foodsが「オーガニック」や「健康志向」といった価値を、原材料表示だけでなく空間体験として伝えるためのブランディング戦略の一環である。
それは既存のファンにとっての“期待された快感”であり、初めて訪れた人にとっては“思いがけない発見”として機能する。
視覚や価格だけでは差別化しにくいスーパーマーケットという業態において、Whole Foodsは「香り」という感覚的価値を核にした共感の売場づくりを徹底し、都市生活者との深いエンゲージメントを築いている。
さいごに
ECやデジタルマーケティングの浸透により、現代の消費者は必要な情報や商品をスマートフォンひとつで手に入れられるようになった。
検索すれば欲しいものが瞬時に見つかり、比較し、購入する。
こうした便利さが日常化した今、リアルな店頭に足を運ぶ理由は変化している。
もはや「必要なものを買う場所」としての役割だけでは、来店動機にはならない。
そのような時代において、小売の現場が果たすべき新たな役割のひとつが、「偶然の出会い=セレンディピティ」の提供である。思いがけず出会った商品や空間に心を動かされ、「なんとなく気になって買ってしまった」「見ていたら欲しくなった」といった感情の揺らぎこそが、リアル店舗ならではの価値である。
しかし、ロサンゼルスの売場を観察して強く感じたのは、真に意味のあるセレンディピティは、単なる偶然では生まれないということだ。
それはむしろ、顧客理解に基づいた戦略的な売場設計、空間演出、提案の積み重ねによって導かれる“計算された偶然”である。
顧客がどのようなライフスタイルを送り、どんな場面で幸せを感じ、どのような提案に心を動かされるのか。さらには、自社がその中でどのような価値を提供できるのか。こうした問いに真摯に向き合い続けることでしか、偶然の出会いは生まれない。
そのためには、デジタルの力が不可欠である。オンライン上で取得できる行動データや関心トレンドは、顧客像を理解する上で大きな手がかりになる。
一方で、実際の店頭で顧客の視線や立ち止まり方、ちょっとした反応を読み取るといったアナログな観察こそが、データでは読みきれない「人らしさ」を捉えるうえで重要になる。
デジタルとアナログは、本来対立するものではない。それぞれに異なる強みがあり、どちらか一方では不完全である。両者を適切に組み合わせることで、はじめて「顧客のリアルな感情」に近づくことができる。
どちらが優れているかという視点ではなく、いかに両者を補完的に活用し、売場や体験に反映させていくか。そこに、これからの小売が向かうべき方向がある。
そしてそのすべては、最終的に「顧客の笑顔」というシンプルで本質的な目的に通じている。
売場のすべての工夫は、その一瞬の感情の揺れを生み出すためにあるのだ。
了。
検索すれば欲しいものが瞬時に見つかり、比較し、購入する。
こうした便利さが日常化した今、リアルな店頭に足を運ぶ理由は変化している。
もはや「必要なものを買う場所」としての役割だけでは、来店動機にはならない。
そのような時代において、小売の現場が果たすべき新たな役割のひとつが、「偶然の出会い=セレンディピティ」の提供である。思いがけず出会った商品や空間に心を動かされ、「なんとなく気になって買ってしまった」「見ていたら欲しくなった」といった感情の揺らぎこそが、リアル店舗ならではの価値である。
しかし、ロサンゼルスの売場を観察して強く感じたのは、真に意味のあるセレンディピティは、単なる偶然では生まれないということだ。
それはむしろ、顧客理解に基づいた戦略的な売場設計、空間演出、提案の積み重ねによって導かれる“計算された偶然”である。
顧客がどのようなライフスタイルを送り、どんな場面で幸せを感じ、どのような提案に心を動かされるのか。さらには、自社がその中でどのような価値を提供できるのか。こうした問いに真摯に向き合い続けることでしか、偶然の出会いは生まれない。
そのためには、デジタルの力が不可欠である。オンライン上で取得できる行動データや関心トレンドは、顧客像を理解する上で大きな手がかりになる。
一方で、実際の店頭で顧客の視線や立ち止まり方、ちょっとした反応を読み取るといったアナログな観察こそが、データでは読みきれない「人らしさ」を捉えるうえで重要になる。
デジタルとアナログは、本来対立するものではない。それぞれに異なる強みがあり、どちらか一方では不完全である。両者を適切に組み合わせることで、はじめて「顧客のリアルな感情」に近づくことができる。
どちらが優れているかという視点ではなく、いかに両者を補完的に活用し、売場や体験に反映させていくか。そこに、これからの小売が向かうべき方向がある。
そしてそのすべては、最終的に「顧客の笑顔」というシンプルで本質的な目的に通じている。
売場のすべての工夫は、その一瞬の感情の揺れを生み出すためにあるのだ。
了。
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企画づくり、現地調査、デザインと設計、製造と施工まで一気通貫して行います。
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