2025年4月15日 更新

LA 店頭レポート シリーズvol.4 ep.6 Trader Joe's

ロサンゼルスの店頭レポート第4弾。 コロナ化で進んだBOPIS。現状はコモディティ化している。トライ&エラーを繰り返すアメリカのリテール事情を「機能と体験」をテーマに考察していく。今回はTrader Joe's。

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LA 店頭レポート シリーズvol.4 ep.6 Trader Joe's

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はじめに

ドライブアップやBOPIS(Buy Online, Pick Up In Store)といった非対面購買サービスは、いまや多くの小売店で標準的な機能となり、消費者はより手軽に、効率的に、欲しい商品を手に入れられるようになった。目的の品をスマートフォンで注文し、店舗の外で受け取る。あるいは店内に足を踏み入れても、受取カウンターで数分以内に商品をピックアップして完結する。その流れは、消費者の買い物スタイルを大きく変えつつある。

一方で、実際に店内を歩き、商品に触れ、売場の空気や接客を体感する——そうした「店頭での体験」も、依然として強い価値を持ち続けている。
オンラインでは得られない偶然の出会いや、五感を通じた気づき、店員との会話。
機能としての“買う”を超えた、感情や記憶に残る購買体験が、そこにはある。

本レポートでは、ロサンゼルス・バーバンクにある主要小売店を対象に、各社が展開するドライブアップやBOPISの仕組みを実地に観察しつつ、それらの利便性と、同時に“店舗でしか得られない価値”についても深掘りする。
機能と体験——二つの接点が共存する今、私たちはどこに魅力を感じ、何を求めて店を訪れているのか。その実態を考察する。

ep.6 Trader Joe's

オンライン展開よりも、人への投資を徹底するTrader Joe's

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Trader Joe’s の店舗には、清々しいほどオンラインの気配がない。
他ブランドのように駐車場にドライブアップやピックアップ専用スペースが設けられることもなく、店内を見渡しても、QRコードひとつ見つからない。

まさに、“デジタルと無縁”と言っても過言ではない空間が広がっている。
コロナ禍の最中でさえ、その姿勢は一貫していた。入店制限を設けながらも、店頭では常に“人の温度”を感じられる空気が保たれ、客足が絶えることはなかった。そしてAIが台頭し、あらゆる場面でデジタルの価値が叫ばれる今なお、その方針は微塵も揺らがない。

Trader Joe’s は徹底的に、“人”と“アナログ”の価値にこだわる。

来店することそのものを「楽しい」と思わせる店頭体験の設計、そしてそれを実現するスタッフひとりひとりへの投資。そのどれもが、自らのブランドの強みを深く理解し、それを愚直なまでに貫くマーケティングの強さを物語っている。
入り口には手書きの看板。

入り口には手書きの看板。

手書きのサインと積み上げたディスプレイにワクワク感がある。

手書きのサインと積み上げたディスプレイにワクワク感がある。

店内の至る所、すぐ声をかけられる距離にスタッフがいる。

店内の至る所、すぐ声をかけられる距離にスタッフがいる。

探している商品の場所へは店員が案内。必然的に会話が生まれる。

探している商品の場所へは店員が案内。必然的に会話が生まれる。

スタッフ同士も、よく会話をする店内。

スタッフ同士も、よく会話をする店内。

常に品出しが行われ、物理的にスタッフと客の距離が近い。

常に品出しが行われ、物理的にスタッフと客の距離が近い。

さいごに

各ブランドにおいて、細かな違いはあるものの、コロナ禍を経て発展したDrive UpやBOPISに関しては、いずれも一定の基準を満たす水準に達しており、現在ではサービス自体がコモディティ化していると言える。

そのような中でむしろ問われるのは、**“どこで買うか”ではなく、“誰から買うか”**という視点であり、店舗体験を通じてブランドの価値や世界観をいかに伝えるかが、競争優位性の鍵となっている。
つまり、デジタルサービスが横並びであるからこそ、売場にはブランドアイデンティティを体現する役割がより一層求められている。

「自社は何を大切にしているのか」「誰をもっとも大切な顧客と考えているのか」「どのような価値ある体験を提供したいのか」。こうした問いに対する明確な答えを持ち、社会に対して提案力のあるブランドとして存在感を発揮できなければ、単に利便性を追求しただけのデジタル施策では顧客の心をつなぎとめることは難しい。

また、顧客は常にデジタルかリアルか、どちらか一方に固定されているわけではない。
用途や気分によって、ある時はアプリでの注文を選び、ある時は店舗での買い物体験を楽しむ。
デジタルはリアルを代替する手段ではなく、あくまで選択肢のひとつにすぎない。

こうした状況下においては、どちらのチャネルを選択した場合でも、一貫した体験価値を提供できる全体最適なサービス設計が、より重要になってきている。

チャネルごとに施策がバラバラに展開されるのではなく、ブランドとしての統一された方向性のもとで、各チャネルが有機的に連動する仕組みづくりが、これからの時代の鍵を握るだろう。

了。

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bonbi GOSSIP 編集部 bonbi GOSSIP 編集部
   
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