LA 店頭レポート シリーズvol.4 ep.3 Walmart

ロサンゼルスの店頭レポート第4弾。 コロナ化で進んだBOPIS。現状はコモディティ化している。トライ&エラーを繰り返すアメリカのリテール事情を「機能と体験」をテーマに考察していく。今回はwalmart。

目次

LA 店頭レポート シリーズvol.4 ep.3 Walmart

はじめに

ドライブアップやBOPIS(Buy Online, Pick Up In Store)といった非対面購買サービスは、いまや多くの小売店で標準的な機能となり、消費者はより手軽に、効率的に、欲しい商品を手に入れられるようになった。目的の品をスマートフォンで注文し、店舗の外で受け取る。あるいは店内に足を踏み入れても、受取カウンターで数分以内に商品をピックアップして完結する。その流れは、消費者の買い物スタイルを大きく変えつつある。

一方で、実際に店内を歩き、商品に触れ、売場の空気や接客を体感する——そうした「店頭での体験」も、依然として強い価値を持ち続けている。
オンラインでは得られない偶然の出会いや、五感を通じた気づき、店員との会話。
機能としての“買う”を超えた、感情や記憶に残る購買体験が、そこにはある。

本レポートでは、ロサンゼルス・バーバンクにある主要小売店を対象に、各社が展開するドライブアップやBOPISの仕組みを実地に観察しつつ、それらの利便性と、同時に“店舗でしか得られない価値”についても深掘りする。
機能と体験——二つの接点が共存する今、私たちはどこに魅力を感じ、何を求めて店を訪れているのか。その実態を考察する。

ep.3 Walmart 見出し

買い物客とピックアップの動線を明確に分けるWalmart

Walmartのピックアップ専用ゾーンは、一般の買い物客が駐車するスペースとは明確に分けられており、利便性を重視する顧客に対して、スムーズかつスピーディなサービス提供を意識している様子が見て取れる。

特に他ブランドと比較して、専用スペースの広さとスタッフの人数が圧倒的に多く、ひっきりなしに車へ商品を運ぶ様子から、利用頻度の高さと運用体制の充実が伺えた。

一方、店内ではイースターをテーマにした装飾や関連商品の演出が目立ち、季節感のある売場づくりに力を入れている様子が確認できた。装飾は視覚的に華やかで、子ども連れの顧客に向けた工夫が多く見られる。

売場全体からは、「安く、良いものをまとめて買える」ことを重視する家族層を主要ターゲットとする姿勢が明確に表れており、価格訴求だけでなく、店内での買い物体験そのものも価値として提供しようとしていることが読み取れる。
イースターとは、イエス・キリストの復活を祝う「復活祭」のこと。 十字架にかけられ処刑されたキリストが、死から復活したことを記念する祝日です。 キリストの奇跡を象徴するイースター(復活祭)は、キリスト教においてはもっとも重要な年中行事。 キリスト教圏では、春の訪れとともにキリストの復活を盛大に祝います。
via Gemini

専用ゾーンへ忙しく運ばれる商品たち。

大量買いが基本のウォルマートらしく、一回の荷物量が多い。

店内は入り口からイースター装飾。

春らしくガーデニングを提案する、植物のタネのスタンドディスプレイ。

化粧品コーナーでは、タオルとのクロスマーチャンダイズ。

日焼け止めがコーナーの一角を独占。

各商品に盗難防止タグ。物価高の継続を窺わせる。

レジ前も華やかにイースター装飾。

見上げても、楽しい空間。

ピックアップの商品を積み込むスタッフがそのままサービスの広告になる。

さいごに

各ブランドにおいて、細かな違いはあるものの、コロナ禍を経て発展したDrive UpやBOPISに関しては、いずれも一定の基準を満たす水準に達しており、現在ではサービス自体がコモディティ化していると言える。

そのような中でむしろ問われるのは、**“どこで買うか”ではなく、“誰から買うか”**という視点であり、店舗体験を通じてブランドの価値や世界観をいかに伝えるかが、競争優位性の鍵となっている。
つまり、デジタルサービスが横並びであるからこそ、売場にはブランドアイデンティティを体現する役割がより一層求められている。

「自社は何を大切にしているのか」「誰をもっとも大切な顧客と考えているのか」「どのような価値ある体験を提供したいのか」。こうした問いに対する明確な答えを持ち、社会に対して提案力のあるブランドとして存在感を発揮できなければ、単に利便性を追求しただけのデジタル施策では顧客の心をつなぎとめることは難しい。

また、顧客は常にデジタルかリアルか、どちらか一方に固定されているわけではない。
用途や気分によって、ある時はアプリでの注文を選び、ある時は店舗での買い物体験を楽しむ。
デジタルはリアルを代替する手段ではなく、あくまで選択肢のひとつにすぎない。

こうした状況下においては、どちらのチャネルを選択した場合でも、一貫した体験価値を提供できる全体最適なサービス設計が、より重要になってきている。

チャネルごとに施策がバラバラに展開されるのではなく、ブランドとしての統一された方向性のもとで、各チャネルが有機的に連動する仕組みづくりが、これからの時代の鍵を握るだろう。

了。