デザイン手法「タイポグラフィ」

様々なデザイン制作は制約のある中で広さと深さを追求します。店頭POPや店頭什器のグラフィックデザインも同様に制約の中で『違い』を作ることが重要になります。タイポグラフィをうまく利用した『違い』とは。

目次

競合入札案件を扱う際に必ず出てくる、「他との差別化」という課題

すべての商売において、
他より「安い」「早い」は言う事自体は不可能では無いですが、販売する側としては出来れば避けたい所です。
特に「上手い」の部分(納品物やデザインの質)については、相手がいる場合は、簡単にはいかない事が多いかと思います。

POPのグラフィック制作においても、何か違いを生み出せる手法はないのか。
という悩みが絶えませんが、差別化する際に使えると思う一つの手法「タイポグラフィ」を紹介したいと思います。

タイポグラフィとは

タイポグラフィとは

検索して貰うと出てきますが、2つの意味合いを持つ言葉です。

一つ目は、「文章を読みやすく見せるデザインの手法」
二つ目は、「文字で1つのデザインを作る手法」
という意味があります。

一つ目については、それこそ「POPの制作自体そのもの」みたいなもので、この言葉を知らずに、POPのデザイン制作業務をしている方は要チェックです。

今回紹介したいのは、二つ目の「文字で1つのデザインを作る手法」になります。

文字で1つのデザインを作る

文字で1つのデザインを作るとはどういうことなのかというと、一番判り易いのは、アニメタイトルや、映画タイトルのフォントです。皆さんの知っているアニメや映画のタイトルのフォントを想像してみてください。
その為に作られたデザインが施されていると思います。
パソコンの中に入っているフォントではなく、そのコンテンツを表す為にデザインされたものになります。

実際販促物の中に使われている様で、「販促物のデザイン」として殆ど使われることはありません。*理由については、後半に記載します。

類似化する傾向にある販促物のデザイン

タイポグラフィの使用例に入る前に、現状の売場にあるPOPを見てみると、
・すっきりしたデザイン
・ブランド名の周りには大きなスペース
・読み易い文字の配置
・ブランドの世界感の中で統一されたフォント
・満足感のあるキャラクターの表情
・熟考されたと思われるコピー

といった感じで大体の販促物のデザインが作られています。

商品や、キャラクター、ブランドの世界感はそれぞれ違いますが、販促物のグラフィックデザイン自体は同じ様な作りをしていて、販促物の目新しさを感じる事は、自身の業務経験が増えるに連れて無くなって来たと感じています。

電飾使ったり、映像を使ったり、メカニカルやデジタルな仕組みを取り入れたりと工夫はありますが、「費用を掛ければそりゃできるさ」というのは、よくある話かと思います。

店頭POPにおけるタイポグラフィ

実例を見て行きたいと思います。

手回しラジオの展示台

手回しラジオの展示台

「回し」の部分と充電「電」の字が、カスタマイズされています。
メーカーのホームーページを拝見しましたが、このフォントは見当たらなかったので、
恐らくこのPOPの為に生まれたデザインなのかと思います。

メーカーさんなどから、販促物制作のオリエンを頂いてから提案の時に出てきたら、ちょっと驚きを与えられそうな印象があります。
(ただし商品名やロゴはレギュレーションがあるので勝手に変更したり手を加えることはNGであることが大半です)

スピーカー売場のビジュアルボード

スピーカー売場のビジュアルボード

力強いフォントで「MUSIC」と描かれています。若者向けの重低音を響かせた印象が湧いてきます。

これは雑誌広告や、Web広告でも使われていますので、企画の上流からのものかと思いますが、既成フォントをいじっただけでなく、売場においてもとても目立つデザインになっていました。

他のアイテムにはない、唯一無二感があります。

アップルのギフトカード什器の告知面

アップルのギフトカード什器の告知面

読みにくいですね。(笑)
ただ、印象はとても強い。

販促物として賛否は出てくるかと思いますが、これもタイポグラフィの一つですね。
他にも、化粧品売り場や、日雑品売り場の販促物もくまなく探しまわってみましたが、文字によってつくられたデザインと見られるものは見つける事が出来ませんでした。
*手書き文字のフォントについては、割愛します。

「整える」から「生み出す」へ

前述しましたが、タイポグラフィとは、
一つ目は、「文章を読みやすく見せるデザインの手法」
二つ目は、「文字で1つのデザインを作る手法」
二つの意味があります。
同じ言葉で異なる意味を持ちますが、いずれも「読み易く、伝わり易く」という着地点です。

店頭POPのデザインを考えた場合、店頭でのPOPの役割として「ブランドメッセージを正しく伝える」という役割を担っている以上、販促物の製作過程(段階)において「文字で1つのデザインを作る」というのは、正直、簡単な事では無いかと思います。

ブランドを守る為のレギュレーションがあり、マス広告から売り場までのプロモーションを統一する考えがある場合等は、店頭販促物のデザイン検討段階での提案は余計な事になる事が殆どです。

だからという訳では無いですが、
殆どのPOPの制作において、タイポグラフィという言葉は「整える」という認識でしか無いのでしょう。

それを「生み出す」という思考に切り替えて、違いをつけることで、
店頭での一瞬の認知「体感する」POPを生み出すことができると思います。

差別化を図るPOPを作る為の一つの手法として、提案の一つに盛り込んでみては如何でしょうか。