LA 店頭レポート シリーズvol.4 ep.5 TARGET

ロサンゼルスの店頭レポート第4弾。 コロナ化で進んだBOPIS。現状はコモディティ化している。トライ&エラーを繰り返すアメリカのリテール事情を「機能と体験」をテーマに考察していく。今回はTARGET。

目次

LA 店頭レポート シリーズvol.4 ep.5 TARGET

はじめに

ドライブアップやBOPIS(Buy Online, Pick Up In Store)といった非対面購買サービスは、いまや多くの小売店で標準的な機能となり、消費者はより手軽に、効率的に、欲しい商品を手に入れられるようになった。目的の品をスマートフォンで注文し、店舗の外で受け取る。あるいは店内に足を踏み入れても、受取カウンターで数分以内に商品をピックアップして完結する。その流れは、消費者の買い物スタイルを大きく変えつつある。

一方で、実際に店内を歩き、商品に触れ、売場の空気や接客を体感する——そうした「店頭での体験」も、依然として強い価値を持ち続けている。
オンラインでは得られない偶然の出会いや、五感を通じた気づき、店員との会話。
機能としての“買う”を超えた、感情や記憶に残る購買体験が、そこにはある。

本レポートでは、ロサンゼルス・バーバンクにある主要小売店を対象に、各社が展開するドライブアップやBOPISの仕組みを実地に観察しつつ、それらの利便性と、同時に“店舗でしか得られない価値”についても深掘りする。
機能と体験——二つの接点が共存する今、私たちはどこに魅力を感じ、何を求めて店を訪れているのか。その実態を考察する。

ep.5 TARGET

オンラインサービスから自社ECへの誘導を狙うTarget

今回の調査対象の中で、TargetはWalmartに次ぐ広さのDrive Up専用駐車場を備えており、来客数とのバランスを考慮すると、割合的にはWalmart以上にドライブアップサービスに注力していると評価できる。

店内においても、デジタルサービスの利用促進に向けたプロモーションが非常に積極的に展開されていた。特にDrive UpやBOPISの利用を入口として、自社アプリの登録を促し、アプリを軸にしたECプロモーションへとつなげていく明確な意図が売場全体から感じられた。

一方で、広い店舗空間を活かした季節ディスプレイや特設売場など、来店自体を楽しませる店頭演出にも力を入れており、空間価値の創出が疎かにされているわけではない。

オンラインとオフライン、それぞれに重点を置いた戦略は存在しつつも、いずれか一方に寄せすぎるのではなく、両方を同時に高い水準で成立させる必要があるという、現在の小売環境の難しさとバランス感覚が如実に表れている事例といえる。

奥側2列にわたってdrive up専用駐車場となっている。

アプリで到着を知らせると、スタッフが荷物を運んできてくれる。

BOPISサインも恒久的なものを設置。

専用カウンターでのピックアップサービス。 この日は、drive upの方が盛んに利用されていた。

店内広告でも、オンラインサービスをプッシュしている。

エンドはクロスマーチャンダイズよりもオンラインサービスの広告として活用。

ECサイトで、色違いやサイズ違いを探してみることを推奨するエンド。

店頭を盛り上げる遊び心のあるディスプレイも設置。

収まらない物価高から価格訴求は継続。

一点一点と向き合うECとは違い、たくさんの品物が並んでいることで 見てみようという気にさせれるのは店頭ならでは。

化粧品コーナー入り口には相談員を配置。

さいごに

各ブランドにおいて、細かな違いはあるものの、コロナ禍を経て発展したDrive UpやBOPISに関しては、いずれも一定の基準を満たす水準に達しており、現在ではサービス自体がコモディティ化していると言える。

そのような中でむしろ問われるのは、**“どこで買うか”ではなく、“誰から買うか”**という視点であり、店舗体験を通じてブランドの価値や世界観をいかに伝えるかが、競争優位性の鍵となっている。
つまり、デジタルサービスが横並びであるからこそ、売場にはブランドアイデンティティを体現する役割がより一層求められている。

「自社は何を大切にしているのか」「誰をもっとも大切な顧客と考えているのか」「どのような価値ある体験を提供したいのか」。こうした問いに対する明確な答えを持ち、社会に対して提案力のあるブランドとして存在感を発揮できなければ、単に利便性を追求しただけのデジタル施策では顧客の心をつなぎとめることは難しい。

また、顧客は常にデジタルかリアルか、どちらか一方に固定されているわけではない。
用途や気分によって、ある時はアプリでの注文を選び、ある時は店舗での買い物体験を楽しむ。
デジタルはリアルを代替する手段ではなく、あくまで選択肢のひとつにすぎない。

こうした状況下においては、どちらのチャネルを選択した場合でも、一貫した体験価値を提供できる全体最適なサービス設計が、より重要になってきている。

チャネルごとに施策がバラバラに展開されるのではなく、ブランドとしての統一された方向性のもとで、各チャネルが有機的に連動する仕組みづくりが、これからの時代の鍵を握るだろう。

了。