太鼓持ち

太鼓持ちはコミュニケーションのプロである。

昔、太鼓持ちという職業があった。
「幇間」(ほうかん)とも言われ、
花街で店と客、芸者と客の間を取り持つなど、
客を助ける(幇助する)ことから作られた言葉である。

現在も浅草に4人の現役の方がいるらしい。
古典落語を聞いていると
時々主人公として出てくるが
落語の主人公だから大抵は
「いよっ」を連発する
どうしようもない太鼓持ちが多い。

だから一般的に「太鼓持ち」と言う言葉からは
おべっか野郎の軽薄なイメージがあるが
実は太鼓持ちはコミュニケーションのプロである。

太鼓持ちの仕事のメインは宴会等で場を盛り上げる役である。
さらに客の旦那に気に入られるとおかかえになる。
そうなると旦那の酒席の時には必ずそばにいて
旦那の機嫌を伺いながら場を盛り上げる。

志ん朝の落語の枕話で聞いたのだが、
ベテランの太鼓持ちになると単純に旦那を褒めちぎったり、
芸をしたりするわけでなく
旦那のそばにいてその話に相槌を打っているだけだそうだ。

端から見ると太鼓持ちなのに何をしているのだろう、
という風に見える。
しかし、そこが大切なポイントで
要は旦那の話の聞き役に徹するのだ。
旦那が話したがっていることを読んで、
その話を引き出す質問をするそうだ。
旦那はよくぞ聞いてくれたと、
自分の自慢話や抱えてる悩みなどを話し始める。
酒席を盛り上げる時も必要だが
そうやって話を聞いてくれる人間を
旦那はかわいがり始める。

しかし、相槌を打つだけでなく
時には反対意見も言ったりする。
そうすると旦那はむきになってさらに熱く語る。
それを繰り返して旦那を焦らし、
頃合いを見計らって
「なるほど、そういうことなんですね~」と膝をたたく。
旦那はことさら満足して気持ちよくなるという寸法だ。
(この手法は女性を口説く時にも使えるかもしれない…)

そうやってその太鼓持ちは旦那にとって
誰にも言えない話が出来る相談役となる。
さらに酒席だけでなく日常的にもつき合うような間柄となり
結果、その太鼓持は旦那にとってかけがいのない存在となる。

優秀な太鼓持ちは芸達者で客を持ち上げるだけでは
勤まらない非常に難しい職業である。
太鼓持ちはコミュニケーションを知り尽くしたプロである。
現代の営業マンをやらせたらトップになれるかもしれない。

最近様々な営業を受けるが
こっちが何を必要としているかを聞かずに
自分の会社の商品やサービスを
一方的に説明しまくる人が多い。
こういうケースはうんざりしてしまうから、
早々に話を切り上げる。
やはりこちらの課題を聞き出すのがうまい
営業マンに仕事を発注するケースが多い。
発注しないまでも、
今後の為に直接会ってみようということになる。

僕たち広告屋もクライアントの課題を聞き出した上で
解決策を提案するのが基本であるから他人事ではない。
コミュニケーションの本質は時代が変わっても不変であると思う。
「いよっ」だけで済む仕事はない。