高級業態の星野リゾートが始めた新業態から学ぶマーケティングのヒント

高級宿泊業の星野リゾートが2月5日に開業した新業態ホテル「BEB5(ベブファイブ) 軽井沢」。ホテルを支えるベースコンセプトやマーケティング上の工夫を考察してみた。

目次

高級業態の星野リゾートが始めた若者向けの宿泊業態

星野リゾートが、新たに軽井沢にオープンした若者向け新業態が話題だ。
1泊1室1万6000円で2‐3名での利用が可能とのことなので、カップルで泊まっても1人8,000円、友人と3人で泊まれば5,300円前後と高級業態の星野リゾートにしては、格安の宿泊費となる。

敷地に入ってまず目に入るのが、2棟の建物に挟まれた屋外のパブリックスペース。板張りになっており、あちらこちらにベンチが設置されている。夜になるとたき火がたかれて、高原リゾートの雰囲気を盛り上げる。

建物に入るとまずあるのが、靴を脱いでくつろげる小上がり。その奥には長いテーブルと、自由に本が読めるライブラリースペースがある。さらに進むと、飲み物や食べ物を注文できるカフェカウンター。多くのホテルで入り口正面に構えているフロントは、かなり奥に、しかもこぢんまりと存在している。

フロントといっても、制服に身を包んだスタッフがズラリと並んでいるわけではない。置かれているのは自動チェックイン機で、カードキーの受け渡しから宿泊代金の精算まで、機械がこなす。ここにいるスタッフは1人だけで、宿泊客への案内の他、館内で流れる音楽を選曲するDJを兼ねている。
なるほど、フロントスタッフの人数を抑え、自動チェックイン機をメインとした運用であれば、固定人件費を下げることが可能だ。レストランも併設されていないため、そこの人件費もかからない。(*近くの星野リゾートの他宿泊施設にあるレストランの利用が可能)
このホテルの目玉は、建物に入ったときに通り抜けた共用スペースにある。冒頭で紹介した屋外の広場と、それを取り囲むカフェやライブラリーは「TAMARIBA」と名付けられ、24時間利用可能だ。
「TAMARIBA」というのはみんなで使える場所のようだ。
果たして、TAMARIBAの楽しみ方とはどのようなものなのか。実際に体験してみた。

まずは、屋外の過ごし方。あちらこちらに丸太を使った「スウェディッシュトーチ」が燃やされている。暖をとるだけでなく、鋳鉄製のフライパン「スキレット」を使って料理も楽しめるという。スキレットは無料で借りられ、パンケーキやベイクドアップルといった食材もカフェで購入可能(500円)。

今回は、リンゴ丸ごと1個を使ったベイクドアップルを作ることにした。といっても大した準備はいらず、リンゴに切れ込みを入れ、バターを載せてからアルミホイルでくるんだものが用意されている。それをスキレットに載せて火にかけるだけでいい。

しばらくすると煮汁が噴き出してくるので、開けて食べてみることに。甘くおいしいが、シャキシャキとした食感で、まだ生に近い印象だった。さらに過熱すると、やがて実がくったりとなり、アップルパイの具のような食感に。ホテルのスタッフによると、変化する食感を楽しめるのがポイントという。確かに、調理済みのものを買うよりも楽しめた。
屋外施設で料理が手軽にでき、持ち込みも自由のようだ。
このあたりもありそうでなかった工夫と言え、人件費の抑制にもつながりそうだ。
海外で流行りつつある、見知らぬ宿泊者とも交流できる「ソーシャルホテル」をテーマにした施設なのだろうか?代表の答えは異なっていた。
星野佳路代表は、欧米のソーシャルホテルとは似て非なるものだと話す。

「諸外国のミレニアル世代は、好調な経済を背景に消費が活発で、人々との交流にアグレッシブ。しかし我々が日本の若者へのグループインタビューを重ねた結果、導き出されたメンタリティーは180度違っていた。将来への不安感があるためか、消費には積極的でなく、旅行にもあまり出かけない。見知らぬ人と交流したいという希望は少なく、むしろ気の合った友人と過ごしたいという意識だった」(星野氏)。そこで、あくまでも仲間とワイワイ楽しめる場所として、TAMARIBAを作ったのだという。
若者向けシェアハウスのコンセプトと欧米のソーシャルホテル、そして東横インなどの低価格業態のオペレーション人件費抑制施策を組み合わせ、あくまで仲間内で楽しむ施設という定義ができそうだ。
欧米のものをそのまま取り入れるのではなく、日本人に合うかのリサーチを経て、そのような結論にたどり着いたのだろう。

2~3のコンセプトを自国民に合わせカスタマイズした上で、ミックスして新しいマーケティング価値を創出する。特徴が明らかであればPRやプロモーションも行いやすい。
宿泊業態以外でも、マーケティングやプロダクト開発の参考になりそうな事例と言えるのではないだろうか。