LA 店頭レポート シリーズvol.3 ep.5 RALPHS

ロサンゼルスの店頭レポート第3弾。 今回はRALPHSの店頭考察。

目次

LA 店頭レポート シリーズvol.3 ep.5 RALPHS

はじめに

テクノロジーの進化とともに、店頭はただの「売る場」から「情報を伝える場」へと変わりつつある。

かつて、消費者へのアプローチ手段はオンライン広告が圧倒的な存在感を持ち、企業の広告予算の多くはGoogleやMeta(旧Facebook)、Amazonへと流れた。
デジタル広告がもたらすターゲティング精度の高さや測定可能な効果により、店頭での広告施策は「補助的な役割」として軽視されがちだった。
しかし、今、その流れに変化が生まれている。

消費者は日々オンライン広告に囲まれ、アルゴリズムによって最適化された広告が次々と表示される環境に疲れを感じている。
「広告疲れ」が進む中、購買直前のリアルな体験——すなわち、店頭での接点が持つ影響力が再び注目されている。

実際、米国の小売大手は「リテールメディア」として店舗の広告価値を再評価し、新たな手法を展開し始めた。
デジタルサイネージやパーソナライズ広告などの新しい手法が台頭する一方で、店頭POPやディスプレイといったアナログな施策も依然として重要な役割を担っている。

「情報を発信するメディア」としての店舗の価値は、デジタルとアナログの手法を問わず、
どの小売業者にとっても不可欠なものとなっている。

では、ロサンゼルスという広大な市場の中で、リテールメディアはどのように展開され、消費者の購買行動にどのような変化をもたらしているのか。

最新の施策が浸透しつつある一方で、店舗ごとの戦略にはどのような違いがあるのか。
今回のレポートでは、ロサンゼルスの店頭を観察し、デジタル・アナログの両面から、小売業者の販売戦略の違いを紐解く。
「店頭のメディア化」はどこまで進んでいるのか。
その実態を探る。

アナログ優位のバーバンクの店頭

ロサンゼルス郊外に位置し、落ち着いた住宅街が広がるバーバンク。
閑静な環境が保たれ、ファミリー層やエンターテインメント業界の関係者に人気の居住エリアとなっている。

映画スタジオに勤める人々や長年住み続ける住民が多く、街全体に安定した生活リズムが流れている。
そのような地域の小売店頭においては、デジタル施策の活用よりも、むしろアナログのPOPやディスプレイが目立つ。
最新のデジタルサイネージやインタラクティブな店頭広告が主流になりつつある都市部とは異なり、バーバンクでは昔ながらの紙のPOPや大きく目立つカラーサイン、店頭に並べられたプロモーション品が購買を後押ししている。
考えられる理由の一つは、地域の消費者の購買行動の安定性にある。
リピーターが多く、買うものや生活スタイルがほぼ決まっているため、データドリブンなターゲティング広告よりも、「今ここで何が安いか」「目に留まりやすいか」といったシンプルな視認性が重視される。
特に小売店舗では、店頭での目立つ陳列が購買のきっかけとなり、高度なデジタル広告よりも「その場で目につくこと」が重要な要素となっているように見える。
都市部で進むデジタル化の波とは異なる形で、バーバンクの小売店頭は「店舗そのものが持つメディアとしての機能」を活かしている。
デジタル施策の有無にかかわらず、いかに店頭で消費者の注意を引き、購買行動につなげるか。
その目的に対し、バーバンクの店頭はアナログな手法を用いながらも、確かな効果を発揮しているといえる。

ep.5 RALPHS

勢いのある元気なディスプレイが特徴的なRalphs

Ralphsの店内は大衆店らしく、元気で明るい印象を与えるディスプレイが目立った。

ここでもデジタルサイネージのようなプロモーションではなく、棚そのものをオリジナルディスプレイにしたり、店内の床に広告をプリントしたり、というアナログの施策が印象的だった。

トルティーヤの有名メーカーによる、具材とともにトルティーヤを販売するディスプレイ。

商品棚上部は、自社メンバーシップサービスのPR枠として活用。

形状がユニークでエネルギッシュなフロアディスプレイ。

床面広告によるブランド訴求。

5.9秒で時計を止めろというミニゲーム要素のあるディスプレイ。

目を引く、という基本に忠実な目立つディスプレイの数々。

ショッピングカートの壁面を広告枠として活用。

スーパーボールが国民の一大イベントのアメリカ合衆国。
当然その時期にあわせて売場はスーパーボール色になり、売場という意味での鮮度が上がる。
ディスプレイの仕方にも工夫があり、
フットボールの見え感を意識した、ヘルメットやレフェリーを模した販促什器(販売ディスプレイ)などがあり、参考になる。

「5.9秒で止めろ」などの参加型のゲームが販売ディスプレイに組み込まれているのも良い。
商品訴求(USPとCBP)で時間軸を使える商品はこういう販売ディスプレイをつくるのも
面白い。

ECに目を向けると、アメリカではAI検索を利用した販売品目の表示も進んでいる。
今までだと、フットボールをテレビで観戦するためのセットを購入しようとすると、
例えば飲み物:「○○ビール」「コーラ」「ルートビア」「レモネード」
例えば食べ物:「ピザ」「ポテトフライ」「ナチョス」「フライドチキン」「ポップコーン」
例えば応援グッズ:「チームユニフォーム」「フェイスペイント」「チームフラッグ」
と入力していたものが、
もっと欲求的な入力でAIが判断してくれて商品羅列をしてくれたりもする。
この場合は、「スーパーボールのテレビ観戦したいから必要なものを」
と入力するだけで商品を選択して表示してくれる。
そして、そのまま買って、届けてくれる。

さいごに

日々デジタル技術は進化を続け、消費者それぞれに最適化された情報が届けられる時代になった。

売る側にとっては、無数のデジタルツールが選択肢となり、データを活用した広告や販促施策が当たり前になりつつある。

しかし、消費者は常に自分を狙い撃ちするような情報に囲まれ、その最適化された広告に疲れを感じ始めている。

情報が届くことと、求められることは別の話だ。
最適化された情報が、必ずしも最適な手段ではない時代へと変わりつつある。

売り場をメディアとして活用する本質は、技術を導入することそのものではない。
重要なのは、自分たちの顧客は誰なのか、彼らが何を求め、何に価値を感じているのかを理解することだ。

アナログの方がむしろ、自社ブランドや特定地域の顧客にはマッチしている場合がある。

デジタルを活用する場合も、空間の魅力を引き出し、購買体験を高めるために設計されるべきであり、技術の導入が目的化してはならない。

リテールメディアをどう活用するかの本質は、
「顧客やメディアを購入するクライアントから何を得られるか」ではなく、
「自分たちが何を提供できるか」を突き詰めることにある。

目新しさに流されるのではなく、自社のビジネスやブランドの本質を見極め、
その価値を最大限に活かす手段として、リテールメディアを設計していくことが求められている。


了。