LA 店頭レポート シリーズvol.3 ep.1 ウォルマート 

ロサンゼルスの店頭レポート第3弾。 アメリカのリテールテックはトライ&エラーをすごく早いスパンで繰り返している。エラーと失敗として捉えず、プロセスとして評価していくところに進歩があると思う。

目次

LA 店頭レポート シリーズvol.3 ep.1 ウォルマート 

はじめに

テクノロジーの進化とともに、店頭はただの「売る場」から「情報を伝える場」へと変わりつつある。

かつて、消費者へのアプローチ手段はオンライン広告が圧倒的な存在感を持ち、企業の広告予算の多くはGoogleやMeta(旧Facebook)、Amazonへと流れた。
デジタル広告がもたらすターゲティング精度の高さや測定可能な効果により、店頭での広告施策は「補助的な役割」として軽視されがちだった。
しかし、今、その流れに変化が生まれている。

消費者は日々オンライン広告に囲まれ、アルゴリズムによって最適化された広告が次々と表示される環境に疲れを感じている。
「広告疲れ」が進む中、購買直前のリアルな体験——すなわち、店頭での接点が持つ影響力が再び注目されている。

実際、米国の小売大手は「リテールメディア」として店舗の広告価値を再評価し、新たな手法を展開し始めた。
デジタルサイネージやパーソナライズ広告などの新しい手法が台頭する一方で、店頭POPやディスプレイといったアナログな施策も依然として重要な役割を担っている。

「情報を発信するメディア」としての店舗の価値は、デジタルとアナログの手法を問わず、
どの小売業者にとっても不可欠なものとなっている。

では、ロサンゼルスという広大な市場の中で、リテールメディアはどのように展開され、消費者の購買行動にどのような変化をもたらしているのか。

最新の施策が浸透しつつある一方で、店舗ごとの戦略にはどのような違いがあるのか。
今回のレポートでは、ロサンゼルスの店頭を観察し、デジタル・アナログの両面から、小売業者の販売戦略の違いを紐解く。
「店頭のメディア化」はどこまで進んでいるのか。
その実態を探る。

アナログ優位のバーバンク店頭

ロサンゼルス郊外に位置し、落ち着いた住宅街が広がるバーバンク。
閑静な環境が保たれ、ファミリー層やエンターテインメント業界の関係者に人気の居住エリアとなっている。

映画スタジオに勤める人々や長年住み続ける住民が多く、街全体に安定した生活リズムが流れている。
そのような地域の小売店頭においては、デジタル施策の活用よりも、むしろアナログのPOPやディスプレイが目立つ。
最新のデジタルサイネージやインタラクティブな店頭広告が主流になりつつある都市部とは異なり、バーバンクでは昔ながらの紙のPOPや大きく目立つカラーサイン、店頭に並べられたプロモーション品が購買を後押ししている。
考えられる理由の一つは、地域の消費者の購買行動の安定性にある。
リピーターが多く、買うものや生活スタイルがほぼ決まっているため、データドリブンなターゲティング広告よりも、「今ここで何が安いか」「目に留まりやすいか」といったシンプルな視認性が重視される。
特に小売店舗では、店頭での目立つ陳列が購買のきっかけとなり、高度なデジタル広告よりも「その場で目につくこと」が重要な要素となっているように見える。
都市部で進むデジタル化の波とは異なる形で、バーバンクの小売店頭は「店舗そのものが持つメディアとしての機能」を活かしている。
デジタル施策の有無にかかわらず、いかに店頭で消費者の注意を引き、購買行動につなげるか。
その目的に対し、バーバンクの店頭はアナログな手法を用いながらも、確かな効果を発揮しているといえる。

ep.1 ウォルマート

ウォルマートグループは、デジタル施策を推進するも…

ウォルマート自体は、Walmart Connectと呼ばれるデジタルと店頭を融合させたリテールメディアをブランドに向けて販売している。

店頭のディスプレイに広告を表示、セルフレジの決済時に商品紹介を流したり、Walmart.comを通じて特定商品の情報をトップに表示するといった試みがなされている。

しかし、バーバンクの店頭の印象としては、
デジタル施策との組み合わせよりも、従来のアナログなPRが目立っていた。

NFLを盛り上げるアナログ装飾。

メディア枠としてブランドに販売されているディスプレイだが、調査時は広告は流れず。

アイスコーナーのエンドでコーンを売る。側面もPR枠として活用。

エナジードリンク(GHOST)のネオンサインを酒類コーナーの上に掲示する 飲み物つながりのプロモーション。

サプリコーナーに自社ECサイトに誘導するQR広告を設置。

化粧品コーナーもアナログのブランドディスプレイが掲示される。

リップ等はWalmartアプリ上でバーチャルお試しができるデジタル施作を展開。

ユニファイドコマース

聴き慣れない言葉であるが、
walmartは従来のオムニチャネルをさらに発展させて、フロントとバックエンドの統合をはかっている。
要は、実店舗とECを一体運営しているのだ。在庫・注文・決済・顧客データを単一システムで統合管理する戦略である。
約4600店舗でオンライン注文の店内受け取りを提供し、3500店舗以上で当日配送に対応している。
つまり、店舗を小型配送センターとして活用することで、オンライン注文にも即応し、在庫回転率を上げている。

チェンネルごとに別管理だった在庫や顧客データを統合することで、「在庫あり」の表示精度の向上、店舗受取と配送の選択自由度向上、返品の簡易化など顧客体験と業務効率の両面を改善している。

さいごに

日々デジタル技術は進化を続け、消費者それぞれに最適化された情報が届けられる時代になった。

売る側にとっては、無数のデジタルツールが選択肢となり、データを活用した広告や販促施策が当たり前になりつつある。

しかし、消費者は常に自分を狙い撃ちするような情報に囲まれ、その最適化された広告に疲れを感じ始めている。

情報が届くことと、求められることは別の話だ。
最適化された情報が、必ずしも最適な手段ではない時代へと変わりつつある。

売り場をメディアとして活用する本質は、技術を導入することそのものではない。
重要なのは、自分たちの顧客は誰なのか、彼らが何を求め、何に価値を感じているのかを理解することだ。

アナログの方がむしろ、自社ブランドや特定地域の顧客にはマッチしている場合がある。

デジタルを活用する場合も、空間の魅力を引き出し、購買体験を高めるために設計されるべきであり、技術の導入が目的化してはならない。

リテールメディアをどう活用するかの本質は、
「顧客やメディアを購入するクライアントから何を得られるか」ではなく、
「自分たちが何を提供できるか」を突き詰めることにある。

目新しさに流されるのではなく、自社のビジネスやブランドの本質を見極め、
その価値を最大限に活かす手段として、リテールメディアを設計していくことが求められている。
了。