一生貧困の宿命「アラフォー・クライシス」を生んだ犯人は誰だ

「不遇の世代」の悲痛な叫びを聞け
NHK「クローズアップ現代プラス」が放送した特集『アラフォー・クライシス』が大きな話題を呼んでいる。アラフォー世代は一生貧困を宿命づけられているのか――そんな悲痛な叫びがネット上に数多く聞かれる。

元大手企業の人事担当者で、組織人事コンサルタントの秋山輝之氏は、こうした状況に至ったのは「日本企業の人事戦略が大きな原因」と指摘する

企業の人事部門はこれまでどのように動いてきたのか。そして、いまの状況をどうとらえているのか。秋山氏が教えてくれた。
 

「一生涯貧困、生活困窮を宿命づけられている」

筆者自身も1973(昭和48)年生まれのアラフォー世代だ。私たちの世代には、これまでいくつもの呼び名が与えられてきた。

初めは「第二次ベビーブーマー」。堺屋太一氏の小説タイトルから「団塊の世代」という言葉が生まれると、それに伴って「団塊ジュニア」とも呼ばれた。10代のときは「受験戦争世代」、20代には「氷河期世代」、30代になると、失われた10年を過ごしたという意味で「ロスジェネ世代」などとも。そして40代を迎えたいま、私たちが置かれた状況は「アラフォー・クライシス」と命名されたようだ。

クライシスとはまたきわめて悲劇的な名前だが、この言葉が話題となったのは、昨年12月14日にNHK「クローズアップ現代プラス」が放送されてからのことだ。同番組で、現在のアラフォー世代は「一生貧困を宿命づけられている不遇の世代」と表現されていた。

この番組に限らず、アラフォー世代については最近何かと話題にのぼることが多い。

昨年12月31日付けの朝日新聞トップ記事「来なかった第三次ベビーブーマー」は、「なぜ産まなかった団塊ジュニア世代」との副題をつけ、団塊の世代の子どもたちが40代に達し、ついに日本の少子化が確定づけられたと評した。

某大手メーカー社長の「30代後半から40代前半の層が薄くなっている。採用もしているが、この世代の人がなかなか集まらない」という発言がネット上で炎上気味になったことも記憶に新しい。SNS上には「どの口が言っているのか」「自分たちが氷河期に新卒採用しなかったからではないか」との反論が渦巻いた。

40〜44歳は、5年で「月給2万円超」ダウン

先に紹介した「アラフォー・クライシス」の番組内容には、筆者のまわりでもショックを受けたという人が多かった。この世代が経済的に不遇であることをきわめてわかりやすいデータで示すともに、その原因を企業の人事戦略との関連性で指摘したためだ。

ベンチで電話するサラリーマンphoto by gettyimages

空前の就職売り手市場で、どの世代も月収が軒並み増加しているなか、アラフォー世代の給与だけがダウンしていること。収入が低く結婚もままならず、親世代と同居して生計を頼っている人が多いため、親世代の高齢化により、将来のとも倒れになる危険性が予測される――番組はそう指摘した。

【給与額の変化】(5年前との比較、同番組資料より転載)
[20~24歳]+5,200円   [25~29歳]+8,700円
[30~34歳]+6,400円   [35~39歳]-4,300円
[40~44歳]-23,300円  [45~49歳]+2,200円
[50~54歳]+21,100円  [55~59歳]+8,000円

番組内では東京大学の玄田有史教授が、アラフォー世代の月収が低下している要因について、ちょうど大学卒業時に「就職氷河期」にぶつかって出遅れたこと、日本企業の「新卒一括採用」の仕組みにより、出遅れたチャンスを取り戻すのが難しいことを挙げた。また、幸い正社員になれた場合でも、大量採用されたバブル世代が上につかえているため、昇進スピードが遅れ、給与が伸び悩んでいることも指摘した。

慶応義塾大学の樋口美雄教授は、この世代が他の世代に比べて、能力開発の機会を十分に受けていないことを指摘。新卒時に正社員として就職できなかった、あるいは転職により一企業での勤続年数が短くなった人は、企業から教育投資を受ける機会が少なかったと述べた。

企業がコスト削減に走った「失われた10年」を20代として過ごした現在のアラフォー世代は、研修を受けた人が前世代に比べて15%前後も少なく、明らかに能力開発の機会に格差があるというのだ。

両教授ともに労働経済が専門なので当然といえば当然だが、アラフォー・クライシスの主要因を、いずれも採用・昇進・教育・報酬・雇用形態といった企業の人事戦略に求めている。企業人事に長く携わってきた筆者にとって、両教授の指摘には、その通りですとしか言いようがない。アラフォー世代は、企業の人事戦略に翻弄されてきた世代なのである。

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