新型コロナ「イベント中止なら倒産」「政府は補償を」の声続々と

新型コロナウイルス対策で政府がイベントの中止または延期を要請したことを受け、コンサートなど多くのイベントが中止を発表した。一方で、関係者からはこれまで明確な方針を示さず、十分な補償もない政府への不満の声も上がる。

興行中止保険は利用できる? また、政府より一足先にイベント中止の方針を決定した東京都では何が起きているのか? 取材した。

“やっと”?の自粛要請

新型コロナウイルス

政府のイベント自粛要請を受け、急きょ公演を中止したPerfume。東京ドームには多くのファンが集まっていた。

撮影:大塚淳史

2月26日、政府は今後2週間程度、大規模なスポーツ・文化イベントを中止もしくは延期、または規模を縮小するよう要請した。これを受け、EXILEやPerfumeは「政府に要請された方針に従う」として急遽、同日夜に予定していた公演を中止。他にも星野源、TWICE、劇団四季など多くのアーティスト、団体が公演中止を発表している。

政府がイベント開催について明確な方針を示したのは、この日が初めて。前日25日に発表した基本方針でも「全国一律の自粛要請を行うものではない」とし、開催の必要性を改めて検討するよう要請するに止まっていた。そのため関係者からは、戸惑いの声がTwitterに上がっていた。

能楽師・槻宅聡さんは「丸投げに等しい」とツイート。

「能・狂言を主催する側としては、一律の自粛は求めないのに、開催の必要性を検討してほしい、というのは判断を丸投げされたに等しい。中止すればチケットは払い戻し、会場へは使用料を、出演者には違約金を払わなければならない。この損害に耐えられる主催者でなければ開催するしか選択肢がない

歌手の西川貴教さんも「なぁなぁ、で結局のとこライブとかイベントはやっていいの?あかんの?どっち?やっても怒られて、やめても怒られる... そろそろ政府でちゃんと決めて欲しい『自己責任』は無責任ッスよ」とツイート。

西川貴教

出典:西川貴教さんツイッター

「中止や延期の補填も当然なく、開催して感染者を出せば関係者全員が、先ず間違いなくメディアやネットで袋叩きにあうでしょう。そもそも国が検査すらまともに把握出来てないし、その検査も入院レベルの肺炎になってからじゃないと受けさせてもらえないので、熟考しています」

「会場は早くて2年前から手配がはじまり、お客様を入れずとも多くのスタッフを危険に晒します。一律に後ろにスライド出来るなら延期も即判断出来ますが、自己責任とされているので足並みは揃いません。保険もリスクを取って加入は難しいです」と、その内情を打ち明けていた。その後、3月のライブの全日程を延期する旨を公表している。

一方、前出の能楽師・槻宅聡さんは「3月15日まで国立能楽堂が主催する公演は中止するそうですが、貸し会場としての公演は主催者判断に任せるとのことです。悩ましいです」とツイート。26日、文部科学大臣からの要請を受けて、国立劇場国立能楽堂などは主催公演の中止を発表しているが、能楽堂の貸劇場公演に関しては、主催者に問い合わせるよう求めていた。

注目の「興行中止保険」、でも補償は対象外

歩道

撮影:今村拓馬

西川さんの言及にあった「保険」について、今、注目が集まっているのが、イベント中止による損害を補償する「興行中止保険」だ。

しかし、Business Insider Japanが大手損保3社に問い合わせたところ、各社、新型コロナウイルスの感染が原因で中止になった場合は「原則、補償の対象外」だという。

「保険は過去の事例を元に制度設計します。悪天候や交通機関の事故などと違い、被害の規模やリスクが現状で予測できない感染症は、対象になりづらいんです」

と、ある大手損保の担当者は言う。また、今から興行中止保険に加入するとしても、

「新型コロナウイルスの感染が一定程度広まっているので、補償が前提になってしまう。審査も厳しくなるでしょう」

また3社ともに、今回の政府のイベント自粛要請は、すぐに保険の審査基準などに影響しないとした。

ある大手損保は「政府の見解や、実際のイベントの実施状況は注視していくが、興行中止保険の枠組みが抜本的に変わることはない」。また別の大手損保は「政府方針を受けて中止したイベントだから保険の対象になる、などの判断はないと思う。あくまで感染症の影響で制度設計していく」と話す。

一方で、興行中止保険は基本的にオーダメード設計だ。大手損保2社は、リスク規模が比較的明確になっている感染症については、補償の対象とする契約も過去にあったという。

補償や融資は「死活問題」、周辺業者や宿泊・飲食に影響も

新型コロナウイルス

Perfumeの公演中止を知らせる掲示板。

撮影:大塚淳史

イベント中止を受けて、Twitterには関係者からの悲痛な声も上がる。その多くが、政府への補償を求めるものだ。

フリーランスのコンサートスタッフです。 中止、延期は仕方がないことだと思います。 政府がそれを言うならきっちり生活保障してください。 個人事業主の僕らは何も保障がないので現場飛んだらハイそれまでヨ。です。収入がまるごと消えます」(@ttohsmir

政府はイベント中止要請を出すなら、セットで補償や融資を決めてくれないと、バタバタ倒産するのは目に見えてる。収入は途絶える。払いはある。そんなのに耐えられるのはよほどの大企業だけ。主催者、出演者だけじゃない。周辺業者、近隣宿泊飲食施設、交通機関…全部影響する。政府は中小支援を!」(@nest1989

「試合の中止、延期の場合にクラブ以上に心配なのはスタジアムにお弁当やスタグル(スタジアムグルメ)、グッズを出していたりする零細の専門業者。もう死活問題だと思います。DAZNとか大手スポンサーも大打撃ですが、そういうところにも目を行き届かせられるかが本当の100年構想の理念の見せどころだとも思う」(@y_kawaji

東京都の補償は「一律の方針なし」

東京都庁

shutterstock / tbbstudio

国に先駆けてイベント中止の方針を打ち出した東京都はどうだろうか。

東京都は21日、都が主催するイベントについて今後3週間は、500人以上の参加者が集まったり、食事を提供するものは原則として延期又は中止すると発表。これまで13のイベントが対象になっている。

今回の決定にあたって、稼働を失った働き手も数多くいるだろう。補償について、東京都政策企画局の担当者は言う。

「補償については、東京都として一律の方針を設けているわけではありません。イベントを担当する各部局に任せており、委託した業者や個人とも担当部局が個別に話し合っています」

今回の都の決定を受けて中止になったイベントの1つが、「東京都結婚応援イベント『TOKYOふたり未来会議』」だ。22日に開催を予定していたが、前日の21日に中止が決定。参加費は無料で、タレントなど複数のトークショーを予定していた。イベント運営は業者に委託していた部分もあるという。イベントを担当する生活文化局都民生活部地域活動推進課によると、

「前日に中止が決まったこともあり、その連絡などで今はまだバタバタしている段階。当日何人のスタッフが稼働する予定だったのかは委託していた業者に聞かないと分かりませんが、運営に必要な人を用意してくれていたはずです。補償に関しては、これから実際にかかった費用などを聞き、話し合っていくつもりです」

政府はさらなる支援の検討必要か

歩道

撮影:今村拓馬

例えば韓国では、新型コロナウイルスの感染拡大によって打撃を受けているエンタメ業界に対し、30億ウォン(2億7000万円)規模の緊急支援を行うと発表。公演がキャンセルされ報酬を受け取っていない芸術家への融資の優遇措置や、小規模劇場への消毒用品などの支援を予定している(NEWSIS、2020年2月20日)。

日本政府も観光産業などへの資金繰り支援として、日本政策金融公庫などに5000億円の緊急貸し付け・保証枠を設けたり、雇用維持を目的に従業員を休業させる企業に出す雇用調整助成金の支給要件を緩和するなどの対策を取っているが、さらなる支援の検討も必要だろう。

(文・竹下郁子)

編集部より:引用したツイートの一部リンクが欠落しており、読者の方からの指摘を受け、追加しました。2020年2月28日 8:25

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