「ターゲット・ショック」で暴落の米国株 ベアマーケット寸前でぎりぎりの攻防

マネックス証券 岡元兵八郎(ハッチ)

S&P500は先週0.03%下げました。これをもちS&P500は7週連続で下落したことになります。最後に7週連続で下落したのは1980年3月来のことで、この時は8週連続で下落しています。一方、NYダウは、8週連続の下落で1932年振りの連続の下げとなりました。

先週の下げで目立ったのは水曜日のマーケットの急落です。この日のS&P500は4%の下げを演じました。きっかけはディスカウントストア大手のターゲット(TGT)が事前予想を下回ったことでした。ターゲット・ショックと呼んでも良いでしょう。ターゲットの第1四半期決算は市場のコンセンサス予想を29%下回り、株価は1日で25%下落しました。これまで堅調だったアメリカ人の消費動向を懸念してのことです。
加えて、この日は米国時間朝方2%台で推移していた米国債10年利回りが、再度3%という大台に乗ったこともこの日の下げを誘発したと見ています。米国債10年利回りは5月9日に3.29%まで急上昇したのですが、その後株価が大きく下落する過程で3%を切って推移していました。

私が不思議に思ったのは、前日火曜日世界最大の小売店のウォルマート(WMT)の決算も予想を下回り株価は11.4%下落したのですが、これ対しマーケットは特に反応せずこの日S&P500は2%上がったのです。しかも、火曜日にはパウエル議長がインフレ退治の為にはFRBは必要なだけ金利を上げる、とタカ派的なコメントをしていたのですが、こちらもマーケットは気にしなかったのです。
翌水曜日は、前日のことを思い出し、マーケットはネガティブに反応するというディレイド・リアクション(遅れた反応)もマーケットの下げを強めたのだと思います。

また、先週金曜日は1.9兆ドル相当のオプションの最終取引日(そのうち4,600億ドル相当は個別株オプション関係)であったこともあり、先週のボラティリティの高さ(株価の乱高下)はオプション絡みのテクニカルな理由であったと考えられます。金曜日は一時的に最安値の3,810まで下落したのですが、その後2時間半かけて1.9%リバウンドしたのはまさにオプション関係の取引の為でしょう。

引値ベースでのベアマーケットは回避したのだが。。。
S&P500の1月3日の史上最高値から先週金曜日までの下落率は18.7%(引値ベース)です。ベアマーケット(弱気相場)の定義は20%の下げですから、引値ベースでは辛うじてベアマーケット入りを避けています。
現在投資家の皆さんが最も知りたいのは、いつマーケットは下げ止まるのかと言うことかと思います。
インフレは40年来の高いレベルであり金利も上昇、将来に対する不安は高まるなか、これ以上状況は悪化しないだろうというくらい投資家のセンチメントは歴史的にみて最悪の状況です。そう言った意味では、マーケットはいつ底を付けてもおかしくはないのですが、市場は毎週ダラダラと下がるのみです。

今回のような大きな調整局面で株価が最安値を付けたことを確認するにはキャピチュレーションが必要です。キャピチュレーションとは、降伏すると言うような意味で、これで米国株はもう終わったと誰もがヒヤッとするようなパニック的な、クライマックスな売りのことです。これが起きると株価は底をつけリバウンドするのです。それがなかなか起きてくれません。米国のメディアでも、いつマーケットは下げ止まるのか議論が行われていますが、コンセンサスはありません。

ザラ場中に一瞬ベアマーケット入りした先週金曜日の安値は今回の下げのボトムなのか?
先週金曜日のS&P500は0.01%上がって終えているものの、ザラ場中には一時前日比で2.3%下げています。この売りでS&P500は3,810ポイントへ下がり、最安値を更新、一瞬だけ史上最高値からの20%の下げとなり、ベアマーケット入りしていました。しかし、引値ベースでベアマーケットを避けたことで、金曜日の下げが、今回の調整局面の大底だったのではないかという指摘する見方もあるのです。

先週週末に私のツイッターで、金曜日の下げで持って今回の調整は終わったと思いますかとアンケートを行ってみましたところ、1,838人の中で「そう思う」との回答は18%だけで、82%の回答者が「そう思わない」と答えてくれました。コンセンサスは常に間違うという法則が正しく、逆張り的に考えるとすると、ひょっとすると先週の金曜日のザラ場中の下げが、今回の下げのボトムであった可能性もあるかなと思ってみたところです。そんな見方が正しいのか、これは歴史が教えてくれることになります。

マーケットは常に単純ではないのですが、今の局面はパウエル議長率いるFRBにとってパンデミックでダメージを受けた米国経済を正常に戻そうとしている、誰もが経験しなかった状況の舵取りをしているという難しさがあります。そんな難しさを今の株式市場は反映しており、投資家の皆さんは不安に思っていることと察しします。
長い米国株の歴史を見てきて言えることは現在の株価の調整というのはあくまでも2013年に始まったブルマーケットのなかでの一時的な下げであり、これで長期的な上昇トレンドが終わろうとしているわけではないと考えています。

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