音楽配信の頂点に立ったSpotifyは、いかに「サブスクリプション」を成功させたのか

異例の直接上場が話題となった音楽ストリーミングサーヴィスのSpotify。これまでに倒れていった同種のサーヴィスが多数あるなかで、なぜ同社だけが生き残ったのか。
音楽配信の頂点に立ったSpotifyは、いかに「サブスクリプション」を成功させたのか
PHOTO: NICK VEASEY/GETTY IMAGES

スポティファイが2011年に米国で音楽ストリーミングサーヴィス「Spotify」を開始したとき、デジタルメディアの未来は広告の領域にきっちりと収まっていた。

「インターネットの原罪」と呼ばれることもある広告モデルに欠点があることは、確かに誰もが知っていた。だが、グーグルやヤフー、フェイスブックといった企業は、無料サーヴィスを提供することで大勢のオーディエンスを引き付けて広告を販売する手法で、急速な成長を遂げてきた。

スポティファイも彼らの成功に続くことを目指したが、そのモデルは異なっていた。当時は一般的ではなかった「サブスクリプション」といった手法を採用していたのだ。

時代の先を行っていたビジネスモデル

その当時、音楽ストリーミングの業界リーダーだったPandoraは、すでに自らを「ラジオの未来」と位置付け、170億ドルに上る同業界の広告市場を狙っていた。スポティファイの幹部たちも同じターゲットに狙いを定めており、広告は「自社戦略の大きな部分」を占めると述べていた。

両社とも有料のサブスクリプションを提供していたが、そこには大きな違いがあった。Spotifyはオンデマンドですべての曲を再生できたのに対して、Pandoraのプレイリストはラジオ形式で、曲をスキップするオプションも制限付きだった。

最近のデジタルメディアの世界では、有料サブスクリプションへの移行が見られるが、11年の当時からこうした転換を予測できていた人は、誰ひとりとしていなかったはずだ。このシフトはNetflixのほか、『ニューヨーク・タイムズ』などの新聞の成功に後押しされるかたちで加速している。

こうして消費者たちは、以前は無料だったデジタルメディアへのアクセスに料金を支払うという考え方に、ますます違和感を感じなくなってきている。ヴェンチャー投資家たちは、サブスクリプションが可能なツールやプラットフォームに積極的に投資するようになっている。

同じように、11年当時には広告に対する反感が今後高まると予想した人もいなかった。だが、広告ブロッカーの使用は拡大し続け、広告拒否はいまや文化的戦争のツールとして頻繁に展開されている。

広告詐欺の問題も、依然として解決されていない。デジタル広告を支配しているフェイスブックとグーグルでさえ、そのデータ収集に基づく販売活動のせいで、悪質なプライヴァシー侵害者のように見え始めている。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)などの経営者たちは、こうした広告への反感を武器に、広告ベースのビジネスモデルを採用する競合他社を厳しく非難している。

死屍累々となったサーヴィスの頂点に

幸いなことにSpotifyは、有料サブスクリプションユーザーのおかげで、このシフトの流れにおいていいポジションにいた。Spotifyの1億5,700万人いるユーザーのうち、月額料金を支払ってサブスクリプションを利用しているのは7,100万人に上る。同社が広告から得ている売上は10パーセント程度にすぎない。

スポティファイは4月3日(米国時間)に新規株式公開(IPO)を行い、終値による時価総額は260億ドル強となった。サブスクリプションに重点を置き、苦労して築いてきたレコード会社との関係を組み合わせたことで、同社はこれまでに倒れていった多くの同業他社と同じ運命をたどらずに済んだのだ。

MOG、Turntable.fm、Muxtape、Imeem、Playground.fm、Myxer、Mixwit、Seeqpod、Grooveshark、Skeemr──。どれも一連の変化の波に乗り切れなかった。15年にとてつもない安値でRdioを買収したPandoraは、17年の身売り予測をなんとかはねのけ、SiriusXMから救済的投資を受けることで落ち着いた。

スポティファイはずっと以前から、自社のサーヴィスは音楽業界の重大な問題だった著作権侵害と闘うものだと主張してきた。同社のサーヴィスは、ファイル共有ソフト「Napster」や「Kazaa」とともに育ち、音楽は無料だと思ってきた世代のユーザーに便利な代替案を提供することで、音楽の料金を支払うよう説得できることを初めて示したのだ。

音楽市場を“再生”させた功績

このシフトは注目に値する。Spotifyのサブスクリプションユーザーは、サーヴィス利用のために月額10ドル、言い換えると年額120ドルを支払っている。この額は、CDブームがピークだったころの平均的な米国の消費者が音楽に使っていた金額より多いのだ(もっとも、スポティファイに支払われる料金は多くの曲で分配されるため、アーティストにはわずかな金額しか届かないと批判する人もいるかもしれない)。

スポティファイのダニエル・エクCEOは、Spotifyなら音楽業界を再び成長させることができると約束してきた。そしてその約束は果たされた。17年、音楽業界は1998年以来初めて、売上の2ケタ成長を達成したのだ。

だが、スポティファイの前には新たな難題が立ちはだかっている。同社はまだ利益を出していない。そして同社にとって頼みの綱である多くのアーティストやレコード会社は、同社のビジネスモデルを批判し続けている。

さらに、同社の成功は競争相手を引き付けている。アップル、グーグル、アマゾンは同様のサブスクリプションサーヴィスを提供しており、現在トップの座にいるSpotifyを脅かしている。その点でスポティファイは、Pandoraがたどった運命を思い出すべきだろう。安定した成功などないということを。


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TEXT BY ERIN GRIFFITH

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO