エイベックス新体制で松浦CEOが目指す新領域とは——メタップスと新会社も設立

エイベックスが新しい経営体制の人事を発表した。

2004年から社長を務めてきた松浦勝人氏は、6月22日付けで代表取締役会長CEOに就任する。現グループ執行役員の黒岩克巳氏が代表取締役社長COO(最高執行責任者)に、林真司COOがCFO(最高財務責任者)に就任し、3人が代表権を持つ新体制となる。

avex新社屋

2017年12月に社屋も新しく生まれ変わった。

撮影:松本幸太朗

2018年に設立30周年を迎えた同社。5月11日に行われた決算会見では、松浦氏は「エイベックスはゼロからやり直すフェーズにきている」とその現状を語った。今後は新社長の黒岩氏が既存の事業を統括、松浦氏は新規事業開発などクリエイティブな領域に注力していくという。

「30年を迎えたこれまでのエイベックスを一度終わりにして、新たな形で始める」と松浦氏が意図を語ったその背景には、小室哲哉や安室奈美恵といった同社の看板を支えてきたアーティストの引退もある。しかしそれ以上に、現状のビジネスモデル自体を再構築しなければいけないという松浦氏の危機感が大きいはずだ。

「脱レコード会社」目指した事業を積極展開

これまでも、エイベックスは時代の変化に先駆けてビジネスモデルを転換してきた。1990年代の「レコード会社」から現在の「総合エンタテインメント企業」へと転換を果たし、持続的な成長につなげてきた。

特にターニングポイントとなったのは同社が「第2の創業」と位置づけた2005年だ。それまでは音楽ソフト制作が事業の主軸だったが、「脱レコード会社」を標榜し、映像事業やマネジメント、ライブ事業を積極的に展開。それが新たな事業の柱になり、好調な業績に結びついてきた。

2005年に社内向けに作られ、松浦氏のオフィシャルブログでも公開されている『avex way 1988~2005』には、同社の歴史と共に松浦氏のビジネス哲学の数々が語られている。

松浦さんのオフィシャルブログ

松浦勝人氏のオフィシャルブログ「仕事が遊びで遊びが仕事」より

松浦氏のキャリアのスタートは1985年、横浜市のレンタルレコード店「友&愛」のアルバイトからだ。商才を認められ上大岡店を任せられるようになった松浦氏は、1988年4月、当時の同僚たちとダンス・ミュージックを中心にした輸入レコードの卸販売業としてエイベックス・ディーディー株式会社を設立。その当時から一貫しているのは、一つの事業が好調なタイミングで次の時代の変化を見据えてチャレンジをしていることだ。

『おそ松さん』など映像でもヒットコンテンツ

前述の『avex way 1988~2005』でも、CDセールス全盛期の1999年に、すでに「CDが売れなくなったらどう生き残るのか?」という危機感があったということが記されている。エイベックスはこの年に東証一部上場、浜崎あゆみがブレイクを果たしている。音楽業界全体も好景気に沸き、会社としても上昇気流の勢いに乗っていた頃、同社では構造改革に向けての新たな取り組みが始められていた。

その発想が2000年代に音楽パッケージ市場が低迷していくなか、エイベックスが他社に先駆けて360度モデルのビジネスを展開する基盤となった。パッケージビジネスだけでなく、ライブやコンサートの制作、マネジメント、マーチャンダイジング、ファンクラブ運営など、音楽やアーティストに関わるあらゆる活動をグループ内で手掛けるモデルだ。

同時期にエイベックスは映像事業にも着手している。2009年にスタートしたBeeTVやdTV、UULAなど配信プラットフォーム事業は順調に会員数を増し、アニメ事業でも『おそ松さん』などヒットコンテンツを生んだ。結果、2015年には1692億円と過去最高の売り上げを記録した。

エイベックス・業績推移

Stockclipより

こうして見ていくと、現在のエイベックスが直面している状況は15年前、2000年代初頭になぞらえることができる。ライブやコンサート事業は堅調に推移しているものの、定額制の音楽ストリーミング配信の普及でパッケージ市場はいよいよ大きく減少。映像事業、アニメ事業にしても、Netflixの契約者数の急増などもあり、決して安泰と言える状況ではない。業績も、2016年、2017年、2018年と足踏み状態が続いている。こうした現状が、創業30周年の今を「第三の創業」と位置づけ構造改革を企図する松浦氏の危機感につながっているはずだ。

エンタメ×テックに特化したVCも設立

では、この先のエイベックスはどこに向かっているのか。

その鍵はテクノロジー分野だ。2016年に同社は100%子会社のエイベックス・ベンチャーズを設立。「エンタテインメント×テクノロジー」の領域に特化したベンチャーキャピタルとして、大型二足歩行ロボットを開発する「株式会社人機一体」などさまざまな対象に出資を行ってきた。

エイベックス・ベンチャーズは5月31日付で本社に吸収合併され、松浦氏が率いる「CEO直轄本部」に統合される。

先日の決算説明会では、あくまでコンテンツを基盤にしながら、VR/AR/MR、バーチャルYouTuber、インフルエンサーのマッチングサービス、ブロックチェーンなどの領域で新事業を展開する予定と発表している。

「タイムバンク」を運営するメタップスと合弁会社「mee」を設立することも発表された。

エンタテインメントとテクノロジーが隣接した分野からは、今後、新たなビジネスが次々と生まれてくるはずだ。そこにおいても、従来の音楽業界のヒットの法則や常識にとらわれず新しい施策や発想を打ち出し続けてきたエイベックスの強みが活かされる可能性は大きい。


柴那典(しば・とものり):音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌やウェブなどを中心に音楽やサブカルチャー分野を中心にインタビューや執筆を行う。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『ヒットの崩壊』など。

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